craft03 Emi Shimokura

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目次

ふわっと変わることを楽しむ。
面白いほうがいいじゃない。

 首都圏から故郷である北海道阿寒湖アイヌコタンへ夫と子供達を連れて移住をしたのは東日本大震災の後だった。「自分の実家にとりあえずは一時避難したんだよね。あの時は、なんだろ、どこから手をつけていいかわからなくなっちゃってさ。それで、富貴子に相談してたら、『もう、一回うち帰っておいで』って言ってくれたんだよね。妹は地元愛が強く、ここで生きていくというしっかりした意志があり、周りの事をよく考えている。自分とは性格が真逆だと話す。
 「私はこんなフワフワしてるからさ、『絵美姉ちゃんは何したいのよ!』とか言われて、うちらはお互いにずばずば言い合っちゃう。だからねぇ、こちらから言ったはずが、逆に向こうのいった言葉が槍みたいに返ってきて胸が、うう~痛い!って時もあるのよね。
 責任を持ってがっちり決めるのも良いと思うけど、私はがっちり決めないの。出会いによって変わると思っているしね。Agueとふっきは似ているんだよ。真面目で頑固。私とは天と地みたいな差があるわけよ。もしかしたら、人生の修行みたいなもので真逆なのに出会っちゃうのかもね」

ふわっと変わることを楽しむ。面白いほうがいいじゃない。 イメージ1

 絵美さんと富貴子さんは、カピウ&アパッポというユニット名でアイヌのウポポ(民謡)を唄う活動をしている。カピウはカモメ、アパッポは花を意味するアイヌ語である。
 2016年には「kapiw(カピウ)とapappo(アパッポ)~アイヌの姉妹の物語~」というドキュメンタリー映画にも出演。
 「あの映画なんて日常のボロボロをさらけだしてるじゃん。佐藤さん(監督)ったら、人に見せないとこ撮るんだもんなー」
 映画の中では、姉妹喧嘩やコタンに住む人々からのコメントも撮られていた。
 『今の奥さんが亡くなったら俺はAgueを殴って絵美をもらう、よし、ダメならふっきだ!』なんて、コタンのおじさん達が集まってお酒を飲んでいるシーンがある。
 「そういう、ユーモア持ってる人って最近少ないよね。みんな真面目だからなぁ。頭かちかちっていうかさぁ。言ってることは素晴らしいけどそのうち頭パンクしちゃうんじゃないかしらね。バカできない雰囲気もあるのかもね。コタンのあの世代の人達のお話聞くと面白いよね。私は面白い方がいいわけよ」
 阿寒湖アイヌコタンでは、姉妹はみんなの可愛い絵美で、みんなの可愛いふっきである。
 夫であるAgueさんは結婚前に二人でバイクで来た際に、コタンの坂を歩くと「お前が絵美のアレか、俺は絵美のオムツかえたんだぞ」と声をかけられ続けたと苦笑いしていた。
 絵美さんの面白い事好きや明るい性格は、コタンの人から愛される理由だろう。ふわっと変わることを楽しむ。面白いほうがいいじゃない。 イメージ2

演じるとか観るじゃない。一緒に場を創りあげる。

 阿寒アイヌ民族文化保存会の活動では、コタンの子供達へ踊りを指導するほか、各地へ出向いて舞踊を披露もする。舞踊を披露している側と、観客と分けるのではなく音楽や舞踊を共有するような感覚で舞台にあがっているという。
 「踊りって上手い下手ってなんだろうって思うけど、でもね、なんかあるよね。
 見ていて格好良いとか、安定感あるかってのもあるけど。
 伝わるっていうか、雰囲気を体感するっていうかさ、どっちもわかるんだよね。
 『踊ってる人』『それを見ている人』じゃなくて一緒にやってる感じがするのよ。」
演じるとか観るじゃない。一緒に場を創りあげる。 イメージ1

民族の誇り?違うな。楽しい事に没頭する。それだけだよ。

 カピウ&アパッポの活動や、保存会の活動と多岐に渡って活躍している絵美さんだが日常生活は子供たちの母として家事、育児をこなす。
 アイヌ料理も時には作り、山菜や花の実など自然の恵みも食卓に並ぶ。
 「鹿肉を貰ったらオハゥ(汁物)を作るね。イベントがある時はシト(団子)を作るからそれを食べたりね。オハゥは大量に作るから二日は続くけど(笑)
 ハマナスの花は大好き。そのまま食べても美味しいし、ジャムにしたり。あとご飯と一緒に炊いたりもするよ。すももっぽい酸味のあるむちっとしている味。」民族の誇り?違うな。楽しい事に没頭する。それだけだよ。 イメージ1アイヌ文化の伝承者としての活動に家事、育児のと多忙な中、創作活動をおこなう。
 オヒョウの樹皮から糸を作る作業をアイヌ語でカエカという。
 樹皮を糸にするには茹でたものを、乾燥させ、裂いて糸を紡いでいく。
 編み物をするにはまずは糸作りから始める必要がある。
 「カエカはね~淡々と無心な気持ちになってやってると気持ち良い作業なのさ。
 あれ、やってる時は本当に幸せな時間なの。その世界にぎゅーって入り込むんだけど
 自分のこっちの世界に戻ってきて、あれやこれやっ、てやると元になかなか戻れないのよ。
 アレコレ他にしながらじゃ、うまく均一になんないんだよね。作っているときは『無』だね。
 地味だけど、その世界は楽しい。癖になる世界だよ」
 手仕事については、浦河の祖母に教わったという。今、使っている材料は浦河の祖母の庭で育てられたオヒョウの樹皮もはいっている。
 「ばあちゃんのも混ざりこんでるかな。ちょっとボコボコしていて糸縒り大変だったかな。作り方はねぇ、コタンにいたらさ、てけてけって走ってると、店の前で刺繍したり木彫りしてる人がいてさ、声かけられる環境だったんだよね。
 お母さんはたまに教えてくれたけど『あんたなんか、どうせ続かないよ』って捨てられたんだわ(笑)だから、ばあちゃんに教わったかな。」
 編み物の他にも、Tシャツのデザインなど様々な紋様を考える。息子の野球の試合へ引率した際もグラウンドでノートを広げラフを描く。
 「野球の試合やってるとこでラフ書いてたり、車の中でカエカしたりね。試合って長いからさ、なんかその時間がもったいないじゃんと思って。他のママ達が「ほら、次の打席だよ」とかって教えてくれるから、その時にちょっと野球を見てね、お~頑張れ~!みたいなさ。」

民族の誇り?違うな。楽しい事に没頭する。それだけだよ。 イメージ2 自然の中に暮らし、アイヌ文化の活動をおこないメディアにも取り上げられインタビューを受ける事も多いが少し違うと感じる事もあるそうだ。
 「私に、民族の誇りとか言わせたいわけ?そうゆうセリフが欲しいの?って言いたくなる事はよくあるのよ。だけど、それって杓子定規。誇りを胸になんて、私は言わないからやめてよって。そんな恰好つけたセリフなんか恥ずかしいじゃない。
 工芸家なんて言われても、私なんかまだまだですよって気持ちでこっそり糸を作っているところにスポットライトがどこからか当たっちゃってキャーみたいな感じなのよ」

 「アイヌ民族の誇り」とわざわざ言葉にして表現する必要はない。舞踊も唄も創作も楽しいからやっているだけと話す。それが自然であり、絵美さんが「舞踊を踊る人」と「観る人」に分けないと話した事と似ているのかもしれない。
 作品を手に取った時に、感性を共有し「誇り」を感じるかは自分次第なのかもしれない。