ばあちゃんが好きだから、
気がつけば受け継いでいた家族の文化
阿寒湖アイヌコタンにて営むアイヌ料理の店喫茶ポロンノは、観光客だけではなく地元の人々もアイヌ料理を食べに来店する。
富貴子さんのお母さんがお店を始めた当時、せっかくアイヌコタンでお店を開くなら今まで自分が食べてきたアイヌ料理をだそうと「ポッチェイモ」「コンブシト」「チポルシト」と三種類の団子の提供を始めたそうだ。
現在も人気メニューであるポッチェイモは冬の寒気にさらし凍結させる。春の暖かさで発酵したイモの皮をむき、つぶし、水で何度も洗いでんぷん質を漉して乾燥させたものを使用して団子を作る。
「ポッチェイモの仕込みはめちゃくちゃ大変なのよ。発酵したジャガイモの皮を剥くのも大変だし独特の匂いもあるし。でも、誰でもできることじゃないし。
それを、浦河のおばあちゃんが手伝いに来てくれてたんだよね。
『遊びにいくならこの箱一つやってからだ』って言われて姉弟みんなで手伝いしたんだ。
ばあちゃんの側にいるのがみんな大好きだったから、教わりながら一緒に手伝って。
大事に一個づつ作るんだ。自分たちが大事にしているもの、おばあちゃんが想いを込めたものを店でだしているから、うまいポッチェイモを作ってるって自信を持って言える」
ポッチェイモは口コミでライダー達に広がり、雑誌に取り上げられるようになり、喫茶ポロンノはアイヌ料理の店として知られるようになった。
「ばあちゃんから、母へ。母から私達に伝わった料理。
これこそがアイヌ料理なんだ!ではなくて、これが我が家の家庭で伝わったアイヌ料理ですよ、って提供したい」
伝統的なアイヌの主食である汁物「オハゥ」の他にアイヌ料理で使われている食材をアレンジした「めふスパ」、ポッチェイモにチーズをのせた「ポッチェピザ」など他にも様々なメニューがある。セタエント、シケレベ、カバノアナタケなどお茶も種類豊富である。
木々や草花と話をする。森に親近感が自然と湧く。
山菜も山に採りに行ってお店でだしているけど、楽しいけど大変かな。全部一か所で採ってはいけないっていう教えがあるからね。もう少し採りたいけどやめて、移動して、の繰り返しだから。」
一か所で採ってはいけない、という教え。それは全てを採ってしまうと次の年に山菜が育たなくなってしまうからだ。必要な分を採ったら、残りは次の年のために採らないというのが決まりになっている。
「山に行く時は、おばさんとお母さんと一緒に行くことが多いんだけど、本人たちは教えているつもりはないかも。二人の仕草とか側にいて見ていることから教わったような気がするな。おばさんなんか、倒れてる木に『やあ、もうお疲れさんだね。ゆっくりやすんでね』って話かけているんだよね。『わぁ、あんた達、どうもねー、それでね・・・だよね・・・」って何か草花と話しているの。それを見ていたせいか、森に対して親近感が湧くっていうか。教え、というよりは見て、感じたかな。山は楽しいよ。』
中途半端はしない。真剣に向き合うんだ。
今、制作にあたっているブレスレットはオヒョウとイラクサとツルメモドキを使って糸を作る事から始まる。植物を糸にするには乾燥させ、裂いて糸を紡ぎ長い一本の糸にしていく作業をする。
「糸は三種類つくらなきゃなんない。でも、そこに、こだわりたいと思ったのは
博物館でやっていたアイヌのイラクサ展を見に行ったのね。
100年前のエムシアツ(着物)を見てもイラクサが横糸をはしっているものは、糸が強いからピシッとしているんだわ。糸自体が、丈夫で綺麗に残っているんだよ。色味も良いし、やっぱり、木綿とは違うなって。だから今回はチャレンジしようと思って作っているんだ」
エムシアツは伝統的な手順で作れば良いが、ブレスレットは昔からあったものではない。
自分のオリジナル作品として考えているからこそ悩みもある。
「ブレスレットは留めがださいとダメじゃない。だから試行錯誤してるよ。
Agueちゃんのシルバーを付けるとしたら留めの部分をどうしようかって考えたりね。
先祖が作ってきた模様のパターンもあるし、自分独自の模様もある。一模様にするのか、連続模様にするのか考えるんだけど、出来上がりが全然違うこともあるし。ほどいて、また編みなおすことも時々。」
編み始めてしまえばひたすらに楽しいと話す。問題は編む前の糸を紡ぐ作業であるカエカ
「焦ってカエカすると、糸が切れちゃうし上手くいかない。丁寧にきちんと想いを持ってつくるとすーっとうまくいく。私は作る相手がいるとより楽しい。
相手の事を考えるとわくわくして、より作れる。手間のかかるもの、刺繍でも自然の物を使って作るものは気持ちを込めて、丁寧にしないと進まないんだよね。
アイヌの手仕事は自然のものを使って作るものである。「うちのばあちゃんになら、譲りますよって言ってくれる人がいて。親族でその方の山へ皆で行ってカムイノミするの。ばあちゃんのために、木に目星をつけてくれているからその木にまたカムイノミして伐採して皮を剥いで、ばあちゃんに教わりながらやるんだよね。うちの子供達も皆連れて行ってさ。姉もいとこも皆、ばあちゃんに色んな事を教わったんだよね。」
山へ入り木を切る時には、山の神と伐採する木にも感謝を述べる儀式、カムイノミを行い木を倒し皮を剥ぐ。
祖母が苗木を自分の畑に植えて40年、50年かけて育ててくれていた2本のオヒョウがあった。
「今、使っているのはその、ばあちゃんが育ててくれたもの。買って容易に出来るものではなくって、貰った材料だから中途半端な気持ちでは作ってはいけないと思っている。」
姉と活動しているアイヌのウポポを唄うカピウ&アパッポ。
保存会や集団でみんなの中に混じって唄うのとはまた別の感覚があるという。
「絵美姉ちゃんと歌うのは、唄自体を楽しめるかな。『まだくるか、こうくるか、こう唄ったらどうするの?』なんて二人の間で唄いながらやり取りしているの。唄が終わった後に『今日は、ふっきにやられた!』って言われると良し!なんて思ったりして。」
活動を始める前は、人前に出るのが苦手だったが今は、色々な人に出会え、経験ができ感謝していると話す。
「最初は、自分との対面だったんだよね。『お前に何が出来るのか』ってそれが怖いから出たくないって思ってた。自分としてステージに立てる人って面白いんだよね。
人任せに集団の中の一人で唄っていても平行でつまらないものになる。
カピウ&アパッポの活動によって、自分と向き合って、自分が出せた時に自信が持ててそれが分かった気がしたんだよね。保存会でアイヌ舞踊を踊ることも同じ。中途半端な気持ちなんかじゃダメ。それって、手仕事も一緒なんだと思う。」
アイヌ料理を作る、アイヌのウポポを唄い、舞踊を踊る、自然の素材を使う。
想いを込めて向き合う事が一つ一つ紡がれて、富貴子さんの手仕事に繋がっていくようだ。