神々と共に生きる
アイヌは、あらゆるものに精神が宿ると考え、山や湖などの自然をはじめ、自分たちに恵みをを与えてくれる様々な動植物などを神(カムイ)としてあがめました。また、病気や天災(雷、強風、飢饉)など、自分たちの手に負えないような強い力を持つものも神とみなしました。
神々は、カムイモシリ(神の世界)からそれぞれの役割をもってアイヌモシリ(人間の世界)に降りてきて、役割を終えると再び神の世界に戻ると考えられていました。
また、精神の良い立派な人間のところには、クマ神をはじめとする位の高い神々がたくさんのプレゼント(毛皮や肉など)を身にまとって遊びに来てくれるので、心がけよく暮らさなければならないのだと考えました。
これらの神々は、逆らうことのできない絶対的な存在ではありませんでした。天災や病気の神々などが不当な行いをした時、あるいは神々が人間を守護することを怠った時には、抗議の祈りも行なわれました。
神々に感謝し平和な暮らしを願う「カムイノミ」
神々に祈りを捧げる儀式をカムイノミといいます。アイヌは、事あるごとにカムイノミを行ないますが、どの神に祈る場合も、まずアペフチカムイと呼ばれる火の神に、それらの祈りが正しく目的の神に届くように祈願します。アペフチカムイは、チセの中央に設けられた炉に鎮座し、アイヌの暮らしを温かく見守る、最も重要で身近な神とされています。
カムイノミを行なう際には、ヤナギなどで作られたイナウと呼ばれる木幣を使用しました。
神々から守護され、食料や道具材の提供があってはじめて、平和で安定した暮らしを営むことができると考えたアイヌは、神々からの日々の恵みに感謝を捧げるとともに、将来にわたって幸福な生活が続くことを祈願したのです。
霊を送る
アイヌ社会で広く行なわれてきたイオマンテは、「クマ祭り」として知られています。
これは、毛皮や肉などをアイヌに届ける役割を持ってアイヌモシリ(人間世界)を訪ねてくれたクマ神の霊を、カムイモシリ(神の世界)へと送り帰すための儀礼です。したがって、正確には「クマの霊送り」というべきものです。
霊を送るにあたっては、何日もかけて酒や団子を作って準備をします。儀礼では、厳粛なカムイノミとともに、歌や踊り、ユーカラ(サコロベ)などでクマの霊をもてなします。饗宴や捧げものによって人間界の楽しさや豊かさを示した後、道標としての矢を東の方角に放ち、クマの霊を送り帰します。
丁重な儀礼とともに神の霊を元の世界へ送り帰すことは、人間世界への再訪を神々にうながすためにとても大切なことでした。